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matsuri7103
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蓬莱三角記・前日譚:削除されたページ

 「魔の海域」というのをご存じだろうか。  フロリダ半島の先端、プエルトリコ、バミューダ諸島を結んだ三角形の海域をバミューダトライアングルと呼ぶ。この海域では、昔から船や航空機での移動中に乗務員が突然姿を消す事故が起こってきた。多くの科学者があらゆる説を唱えてきたが、どれも解明には至っておらず、「魔の三角海域」として超常現象としてオカルト的に扱われている。  この「魔の海域」は、日本にも存在している。千葉県野島埼、小笠原諸島、グアムを結んだ海域ではたびたび行方不明者が出ることから、ドラゴンズトライアングルなどと呼ばれている。  いずれも全てが謎めいた事故ではなく、原因が明らかなものも多い。  だが、どういう理由で船が、航空機が、あるいは人が失踪するのか、あらゆる科学的根拠を否定する現象も起きている。  果たして、消えた人達はどこへ行ってしまったのか。  私は、彼らが辿り着いた先について心当たりがある。  私がかつて生まれ育った故郷では、時折外から流れ着く人がいた。彼らは、私の知らない言語を話し、服装は人によってバラバラで、有している知識や文明も多種多様だった。今ではそれが日本語であったり、中国語、英語……と理解できるが、当時は皆等しく異郷の言葉として扱われていた。  通常、こういう人達は多くの民衆の目に触れないように保護される。私が外の世界の人に詳しいのは、私の生まれた家が異郷人を保護する役目を担っていたからだ。  私の故郷は、大きな島だった。名前はない。というのも、私の故郷では周囲に国はなく、世界は大地と海の底の神宮だけであった。国の名前というものが他との違いを表すものだとすると、他国という概念がない故郷では、国名も必要なかったのかもしれない。世界はあの中に限定されていた。  周囲は穏やかな海に囲まれていたが、ある一定以上沖に進むと、船など一瞬で木端微塵にされる雷雲と暴風域に突入する――この荒れ狂う海域を、禁域の海「禁海」と呼んだ。通常、禁海の外に出ることも外から来ることもできない島、それが私の故郷だ。  それでもどういう原理かは分からないが、なぜかふいに海辺、あるいは山奥で異郷の人が迷い込んで来る。  我々の故郷では、そういった人達が安心して暮らせるように保護し、代わりに彼らの持つ知識を分けてもらっていた。異郷人の持つ知識により、我々の故郷は文化を発展させていったのだと聞く。  故郷の他の人よりも外の世界を聞き知っていた私は、次第に故郷の外側に興味を持つようになった。詳細は書けないが、私は安全に外に出る方法を探し出し、この国――日本に辿り着いた。  かつて故郷にいた頃、日本から来た男の世話を任されたことがあったので、辿り着いたのは偶然だが馴染みのある国で良かったと思っている。  彼が話す日本という国では、帝と将軍という統治者がそれぞれの土地にいるという、複雑な仕組みが取られているのだと聞いた。  だが私が今いる日本では、政治家こそいるが統治者という存在はいない。彼が話す日本は、江戸時代の日本のことだったように思う。まさか他にも日本という国があるのだろうか。それとも、私が彼の話す言葉をうまく聞き取れていなかったのだろうか。今となっては確かめる術もない。  私はまだ日本についても、この世界についても十分に知らない。そしてこの世界のどこにも、故郷のことについて触れたものが見つからない。  広い海のどこかに、故郷はあるのではないか。嵐を生む雲に隠れて、誰もまだ発見できていないだけではないか。そう考えて海に関することを調べるようになったことが、私が「魔の海域」に着目した経緯だ。遭難事故が起こったときの現象が、禁海の様子と似ているのだ。  私の故郷は、この「魔の海域」を越えた先にあるのではないだろうか。  

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