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matsuri7103
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蓬莱三角記・前日譚:浦島の話

 詫間(たくま)の与太郎の話は知ってるかい。  なんでも、もとは仁尾に住んでいた人らしいが、遠く流されてここに着いたらしい。  竜宮城? ああ、あの人の話は間に受けないほうがいいぞ。悪いお人ではないんだが、ちょっとばかし、頭がいかれちまってるようだ。  俺も聞いたさ。  漁の最中に波にさらわれて、気付いたら海の"向こう"に行っちまったって話だろう。なんでも、都の御殿みたいなところで世にも美しい女神様だか天女様だかにもてなされていたんだと。  しばらくは宴のような日々が楽しかったが、次第に故郷が恋しくなって、こっそり城から抜け出して荒海に出たんだそうだ。渦潮に巻き込まれ、もはやこれまでかと気を失い、目覚めてみたらこの浜に流れ着いたらしい。  そのとき介抱したのが俺の伯父さんなんだが、どうも話が通じねえ。三年前に亡くなった爺様とでも話してるみたいだったとよ。果てには、当今の帝は誰だとかで、与太郎の頭の中が百年前で止まってるのが分かった。  ん? なぜ与太郎なんて呼ぶかって? そんなもん、あの人がほら吹きだからに決まってら。  俺は若い頃に丹後で船乗りやってたんだ。伊根って町でな、そこに「浦嶋子(うらしまこ)」という伝説が残ってる。  大昔の話だ。筒川という村に浦嶋子って名前の男がいたそうだ。浦嶋子が海で五色の亀を釣り上げると、それが美女になった。美女は亀姫という名前で、浦嶋子を海の果ての蓬莱に連れて帰り、そこで祝言を挙げたらしい。浦嶋子はしばらくはそこで楽しく暮らしていたが、やがて故郷が恋しくなって帰ってきた。帰ってみると自分が故郷を去ってから三百年も経っていたそうだ。知ってるやつもおらず、悲しみに暮れた浦嶋子は、亀姫から「もしものときに」と貰っていた玉手箱を開けてみた。すると魂は天に帰っていったという。これが、俺が聞いた浦嶋子伝説だ。与太郎の話と似てるだろう。 ――随分と話好きな男だった。  先程までこの地の噂話を聞いていた旅の男は、聞いたことを書き留めながら、喉の奥で小さく唸った。最近、京を中心に、不思議な出来事や昔の話などを芝居や草子にするのが流行している。旅の男は、全国各地の様々な民話や伝承を集め、それを版元や草子作者に売ることで生計を立てていた。路銀は多めに渡されており、旅の途中で書き留めた書を京まで送っている。  男が京を発ってから、二年が経とうとしていた。ようやく讃岐国まで着いたが、彼が浦島の話を聞いたのはこれで"四度目"となる。  彼の故郷である相模国三浦では、亀姫ではなく乙姫という名の似たような話が伝わっており、旅の最中では尾張と信濃それぞれの村で、海の向こうにある城に行った男の話を聞いた。 「なぜ、これ程ばらばらな土地に、似たような話があるんだろうか」 たとえば、蓬莱という場所が本当にどこかにあって、なんらかの偶然によってそこに辿り着いた者がいたとしたら……。それが一人ではなく何人もいて、それぞれが戻ってきた場所が今の伝説として残っているのではないか。そうして考えてみると、先程聞いた与太郎という男の話も、いずれは伝承となるのかもしれない。  そこまで考え、男は自身の考えを振り払うように頭を小さく横に振った。 ――いや、考えるのはよそう。おれは話を集めるのが仕事だ。この散らばった話を物語としてどう面白くまとめるかは、先生方にお任せしようじゃないか。

蓬莱三角記・前日譚:浦島の話

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